Mood of 2010-Album Section#2-

前回に引き続き、そして今年を締めくくる重労働。まぁ今年は公約もあるわけだから、例年よりも楽かな。

5位

Before Today

Before Today

アンセム:★★★★☆  作品構成:★★★
これ、聴いたことある!!誰が聴いたって同じ反応をするのではなかろうか。アリエル・ピンクの最新作が放つのは強烈な既視感。つまりデジャヴの音楽。始まりからして『ホワイト・アルバム』のパロディのよう。そこへヒッピー集団と銀河鉄道999の乗客が現れてAORに挑戦するような、奇妙奇天烈な世界が展開される。奇妙だと一歩引いていながら、心のどこかで「やっぱこれ知ってる。懐かしい。」とホロリとしてしまう。ミックスというよりコラージュ。技術ではなくセンス。その事実に気付いたとき、「ビフォー・トゥデイ」というタイトルの意味がしみじみと分かる。

4位

Transference

Transference

アンセム:★★★  作品構成:★★★★★
音を録る。その一点に徹底したこだわりがなければ、こんな作品そうそう作れるもんじゃない。安物のラジカセで聴くべからず。豪勢なオーディオを揃える必要はないが、出来ればヘッドフォンなどでじっくり集中して楽しんでほしい。聴き手の高揚感を完全に無視したブツ切り、各楽器を適正な定位に置くセンスなどなど、聴くたびに新たな音色を発見できる作りの巧さもさることながら、楽曲それぞれが妙に艶っぽい点にも気がつくだろう。即効性の高いメロディを求めるならば前作をお薦めする。だが、何度も繰り返し酔いしれる事ができるのはコチラだろう。それと、アートワーク賞も彼らにあげる。

3位

Halcyon Digest [輸入盤CD] (CAD3X38CD)

Halcyon Digest [輸入盤CD] (CAD3X38CD)

アンセム:★★★★☆  作品構成:★★★★
暗い。暗すぎる。影の差す程度の暗さならばゴロゴロ見つけられるけど、影ってそれ結局のところ光当たってんじゃん。一方ディアハンターの場合は徹底的に暗い闇のなか。その闇で、もがくようにサイケ・バラッドを気取ったり、スモーキー・ブルースに手を染めたり。ハルシオン。つまり睡眠導入剤ってタイトルが全然冗談になっていないほど張り詰めたバツの悪さと脱力感。これにゲッとえづくようならそれは、あんた強い人だ。こんな闇をみせられたら、大抵の人は身を委ねてしまう。逃避なんてぬるい。生理現象だ。そんなまどろみからハッと目覚めたとき、えもいわれぬ爽快感が体を駆け巡る。やっぱ劇薬。

2位

ハートランド

ハートランド

アンセム:★★★★  作品構成:★★★★★
オーウェン・パレットという人物がここ何年かに残してきた功績を考慮にいれるまでもなく、本作の素晴らしさは確固たるものだ。ヴァイオリンを知り尽くした草食系ゲイによるひとりカンタービレ。ギターの音色に慣れ親しんだ耳には相当新鮮に響く多彩な弦の感触。そこに絡みつく打ち込みのソース。オーケストラの方法論でエレポップを演ったと本人が語っているように、ミニマルであることが原則であるループ達がそれぞれに意思を持っているように生き生きと形を変えて迫ってくる様は圧巻。アイデアとそれを実現するテクニックにはただただ脱帽。複雑怪奇なフレーズの数々はボケ防止にも一役買うかもしれない。愛すべきオタクの勝利。

1位

The Suburbs

The Suburbs

アンセム:★★★★★  作品構成:★★★★☆
公約達成。長々とレビューを試みた甲斐あって、見事No.1。もう色々書いたから満足なんだけど、もう少し。言葉。言葉なんですよ。本作が他と歴然の差をつけているのは。聴かれるべき言葉。その言葉がまた新たな言葉を生む。この作品について多くの人が語りたがるだろうし、多くの人が導かれる、癒される。本作を前にしてカニエ・ウェストは全くの無力だ。アイツはやっぱり俗物だ。正直じゃない。アーケード・ファイアもカニエもどん詰まりの心理状態からスタートしていることは確か。そこは同じだし、誰もが共感できるメンタリティだと思う。しかしカニエはその状況で壮大な愚痴をこぼすことしかできなかった。一方ウィン・バトラーはそんな愚痴をさっさと忘れて次へ進もうとした。進んでくれた。とても孤独な選択だったけれど、その代わりに闘いの疲れを癒してくれる本作を残してくれた。思い切りレイドバックした“あの頃”を思い出しながら。つまり、今年のNYタイムスは気が利いていたってこと。