ビバ・ノスタルジー

「将軍塚までドライブして夜景見ながらタコ焼き食おうぜ」ってすこぶるナードなムードが前作『NIGHTS OUT』だったとしたら、今回は、葉桜だかなんだか分からないG.W.前の出町柳三角州@夕方といった趣だろうか。ローカルネタ満載でお恥ずかしい。METRONOMYの2ndにキュンキュンなわたくし。いや〜でも、よいです。ダサいシンセに不穏なコード、控え目ながらメリハリの効いたビート、男女入り乱れてのボーカルにノスタルジーをちょこっと。前作の宅録が好きだった人には物足りなく思えるかもしれないが、噛めば噛むほどコチラの方が…。ドキドキするような疾走感や問答無用の大技炸裂なんてのは皆無。ひたすら常温で危うさすら感じる隙だらけのメロディの途中、不意に訪れる60's風味にジーンとくる仕上がり。今月はこれだけあれば全く問題ない。

イングリッシュ・リヴィエラ

イングリッシュ・リヴィエラ

ANGLES

「Is This It?」という漠然とした問いで幕を開け、思わぬ所から「This Is It」というスーパースターの断末魔で終わりを迎えた2000年代最初の10年間。その自由で型破りなモダン・エイジの空気を決定付けたのは誰がどう見てもTHE STROKESだった。だからこそ、新たなディケイドへと突入したいま、彼らの4枚目のアルバム『ANGLES』には相当な期待と(否定的ではなく)批判的な視線が注がれている。
これまでにないほどカラフルなジャケットが象徴するように、本作はレンジの広い楽曲を備えている。これはジュリアンを頭脳とする彼ら流の方法論を徹底的に排除した結果だという。5人のメンバーが平等にアイデアを出し合い、実に民主的な創作活動だったそう。なるほど、レゲエを下敷きにしたような冒頭曲や、持ち前の性急なビートにフォーカスした4曲目、POLICEのように巧いアレンジを効かせた3曲目や6曲目などバラエティに富んだ新境地、一方でタイトなリズムにツイン・ギターが踊るリード・シングルの2曲目など元来のファンを心配させない心配りもある。相変わらずギターのフレーズは練られていておもしろいし、10曲でトータル35分にサラリとまとめるセンスも健在。しかしながら、(少なくとも私の)期待を超える内容ではなかった。片付けたと言いながらもダンボールに物を詰め込んだだけのような、中途半端で先送りな自己満足がこびりついていて、なんとも後味が悪い。
自分たちは、もがき苦しんでいる。バンド内のそんな近況報告をされたような気分だ。名盤と評され多くの模倣者を生んだ1st、そして曲構成の巧さ見事に証明した小品が揃った2ndの存在をいっそう輝かせてしまうオチと言えよう。本作を聴いて、「THE STROKESが新しいモードに入ったぁ〜やったー。」などとレビューする連中がいるとするなら、そいつは相当な楽天家か、でなければ本当は耳が聞こえていないのではないかしらと思う。ファンとしては相当辛い作品なのだ。繰り返しになるが、おもしろい部分はいくつも発見できる。その点のみを注視して、彼らのチャレンジ精神を称えることもできる。ただ、グッとくる部分があまりにも少ない。平凡なバンドがこうした散漫な作品をリリースしてしまうと、間違いなく次はない。私達ファンにとって幸いなのは、彼らが、(自分たちが出したいと思う限り)次を出せるポジションにあるバンドだということだけである。次回作に期待。

アングルズ

アングルズ

エレガントな孤独

James Blake

James Blake

エレガントな孤独。言い得て妙だな。湖の底を打つようなベース音と、ラップトップが唯一心許せる友とでも言わんばかりのオタクっぽい音色の数々。冷え切った音像の中にあって、悦に入った歌声だけがとても暖かい。本人がいちばん陶酔しちゃってるだろうと勘ぐりたくなるこの世界観はハッキリ言って、異常。だが、そこに共感してしまっている自分がいることも確か。“KID A”といった極端な比較対象すらひっぱり出したくなるくらい興奮している。ほとんどエレクトロニカのみで構成された前半と、ピアノ中心の後半といった対比も鮮やか。ダブ・ステップってこんなだったっけ?いや、これは全く新しいソウルミュージックだ。“ソーシャルネットワーク”世代だけに許された甘美な恋歌だ。しばらくはこれしか受け付けられなくなりそうな危うさは、Antony & The Johnsonsを思い出す。2011年がとんでもない年なのか、彼だけが特異なのか。その判断はまだ付かないのだけれども、涙なしには語れない2曲目が回答の糸口となるかもしれない。

ポップスと言葉の関係性に関する脳科学的考察―その2

前回に引き続きシリーズもの。バックナンバーはカテゴリーのシリーズにまとめることにしましょうか。

意味が分かり過ぎて辛い
葉がメロディを攻撃する。この表現はRADIOHEADトム・ヨーク氏がいつかのインタビューで発した一言である。ヨーク氏の真意を完全に理解できたかどうかは別として、当時学生であった私はこの一言にひどく共感した。過大解釈さえした。メロディに歌詞が付くことで、そのメロディの意味は限定されてしまう。それがどんなに優れたメロディであっても音楽は言葉に縛られる。伝えたいことをメロディにのせてるんだからそれでいいだろう!?言ってくれるね。それなら奴らは音楽家でなく、はなし家だ。落語を卑下しているわけではないが、言葉ありきの音楽というのはとても底の浅い。カップヌードルのCMがこのことを明確に示してくれている。そして、先ほど登場した学生にとってコブクロが嘘っぽく、EXILEがバカっぽく聞こえる原因はこうしたところにあるのではないだろうか。歌詞の意味が分かりすぎて辛いのだ。音楽とはもっと、その価値を聴き手の想像力に委ねられるべきものだったはずじゃないの?だから彼は異国の言葉で語られる音楽を好む。コミック<ノベル<ミュージックなのだ。そこで語られていることを逐一理解することは出来ないが、音楽そのものを純粋に楽しむことができるからだ。創り手の意図とは無関係にメロディが持つ無限の小宇宙を探索できるからだ。そんな小宇宙に迷いこんだ笑い話を例に挙げよう。ある新婚カップルが自分たちの結婚披露宴の入場BGMにCOLDPLAYの“In My Place”という曲を選んだ。二人にとって思い出深い曲だったからだ。なるほどこの曲はズシリと打ち鳴らされるドラムとギターの高音アルペジオが壮大な印象を与える楽曲だ。メロディも祝福的なムードに満ちている。しかし、この曲の歌詞で語られているのは挫折して打ちひしがれた男のドン詰まりな独白なのである。主席した招待客が一様に拍手をおくるなか、イギリス出身のジャクソン氏だけが苦笑したという。音楽とはこうした勘違いさえも許容する幅を持っているのだ。そう「邦楽は酷くて聴けたもんじゃない。なにがあろうと洋楽の方が絶対的に優れている」という主張は、この文脈でのみ多くの賛同を得られるのではないだろうか。

ポップスと言葉の関係性に関する脳科学的考察

新年一発目はちょっとマジメに。ヒトは音楽のどこを聴いてそれを良しと思うのか?おやまぁ、なんて大袈裟な。っと言われてしまうかもしれないけれど、ここら辺に次のビジネス・チャンスが眠っているのかもしれない。ってまた大袈裟な。

アナタは邦楽派?それとも洋楽派?
ップスはメロディと言葉でできている。質の高いポップスであればあるほど、この両者が優れていることが多い。そんなの当たり前なんだけど、例えば「俺って洋楽しか聴かないからさぁ〜」とか言いながら輸入盤を買う貧乏大学生に対してこの原理は通用するのだろうか?もし通用するのであればそれは、彼がネイティヴ並みの聞き取り能力を持った語学通か、まさにいま買われたその作品に言葉の意味など超越するほど卓越したメロディが搭載されていて彼はもっぱらメロディのみを楽しんでいるか、そのどちらかということになる。勿論、現代のポップスにのせられる歌詞はほとんど意味のない言葉の羅列であったり、語感を楽しむために韻を踏み単語を並べたものである場合も多くある。使われている言葉に意味がないのであれば、訳詞の付いた国内盤(大概の場合こちらのほうが1.5倍ほど値が張る)を購入する必要はない。輸入盤のほうが経済的だし、もしかすると、輸入盤の盤面からは本国の工場の匂いがして、よりいっそう本場の雰囲気を楽しめるかもしれない。話がそれたがここで私が問いたいのは、洋楽は言葉(の意味)が求められない傾向が強いのではないか、ということだ。日本人の洋楽ファンの大多数はほとんど英語を話せないし聞き取りもそこそこだろう。つまり訳詞なしでは曲の意味など到底理解できない。しかし、一部の例外を除いて洋楽市場は輸入盤で成り立っているし、そもそも輸入盤レベルでの実績がないと国内盤化は望めない。ここで、最初に示したポップスの大原則に立ち返ると、その大原則そのものが破綻する。「それでも邦楽は酷くて聴けたもんじゃない。なにがあろうと洋楽の方が絶対的に優れている」と言ったのは学生時代の私であって、そのような独りよがりは本稿では必要とされていない。だが、このような愚かな学生の戯言にも立派な言い分があったりするからおもしろい。

なんだかノッてきたのでシリーズ化しよう。続き、また書きます。

Mood of 2010-Album Section#2-

前回に引き続き、そして今年を締めくくる重労働。まぁ今年は公約もあるわけだから、例年よりも楽かな。

5位

Before Today

Before Today

アンセム:★★★★☆  作品構成:★★★
これ、聴いたことある!!誰が聴いたって同じ反応をするのではなかろうか。アリエル・ピンクの最新作が放つのは強烈な既視感。つまりデジャヴの音楽。始まりからして『ホワイト・アルバム』のパロディのよう。そこへヒッピー集団と銀河鉄道999の乗客が現れてAORに挑戦するような、奇妙奇天烈な世界が展開される。奇妙だと一歩引いていながら、心のどこかで「やっぱこれ知ってる。懐かしい。」とホロリとしてしまう。ミックスというよりコラージュ。技術ではなくセンス。その事実に気付いたとき、「ビフォー・トゥデイ」というタイトルの意味がしみじみと分かる。

4位

Transference

Transference

アンセム:★★★  作品構成:★★★★★
音を録る。その一点に徹底したこだわりがなければ、こんな作品そうそう作れるもんじゃない。安物のラジカセで聴くべからず。豪勢なオーディオを揃える必要はないが、出来ればヘッドフォンなどでじっくり集中して楽しんでほしい。聴き手の高揚感を完全に無視したブツ切り、各楽器を適正な定位に置くセンスなどなど、聴くたびに新たな音色を発見できる作りの巧さもさることながら、楽曲それぞれが妙に艶っぽい点にも気がつくだろう。即効性の高いメロディを求めるならば前作をお薦めする。だが、何度も繰り返し酔いしれる事ができるのはコチラだろう。それと、アートワーク賞も彼らにあげる。

3位

Halcyon Digest [輸入盤CD] (CAD3X38CD)

Halcyon Digest [輸入盤CD] (CAD3X38CD)

アンセム:★★★★☆  作品構成:★★★★
暗い。暗すぎる。影の差す程度の暗さならばゴロゴロ見つけられるけど、影ってそれ結局のところ光当たってんじゃん。一方ディアハンターの場合は徹底的に暗い闇のなか。その闇で、もがくようにサイケ・バラッドを気取ったり、スモーキー・ブルースに手を染めたり。ハルシオン。つまり睡眠導入剤ってタイトルが全然冗談になっていないほど張り詰めたバツの悪さと脱力感。これにゲッとえづくようならそれは、あんた強い人だ。こんな闇をみせられたら、大抵の人は身を委ねてしまう。逃避なんてぬるい。生理現象だ。そんなまどろみからハッと目覚めたとき、えもいわれぬ爽快感が体を駆け巡る。やっぱ劇薬。

2位

ハートランド

ハートランド

アンセム:★★★★  作品構成:★★★★★
オーウェン・パレットという人物がここ何年かに残してきた功績を考慮にいれるまでもなく、本作の素晴らしさは確固たるものだ。ヴァイオリンを知り尽くした草食系ゲイによるひとりカンタービレ。ギターの音色に慣れ親しんだ耳には相当新鮮に響く多彩な弦の感触。そこに絡みつく打ち込みのソース。オーケストラの方法論でエレポップを演ったと本人が語っているように、ミニマルであることが原則であるループ達がそれぞれに意思を持っているように生き生きと形を変えて迫ってくる様は圧巻。アイデアとそれを実現するテクニックにはただただ脱帽。複雑怪奇なフレーズの数々はボケ防止にも一役買うかもしれない。愛すべきオタクの勝利。

1位

The Suburbs

The Suburbs

アンセム:★★★★★  作品構成:★★★★☆
公約達成。長々とレビューを試みた甲斐あって、見事No.1。もう色々書いたから満足なんだけど、もう少し。言葉。言葉なんですよ。本作が他と歴然の差をつけているのは。聴かれるべき言葉。その言葉がまた新たな言葉を生む。この作品について多くの人が語りたがるだろうし、多くの人が導かれる、癒される。本作を前にしてカニエ・ウェストは全くの無力だ。アイツはやっぱり俗物だ。正直じゃない。アーケード・ファイアもカニエもどん詰まりの心理状態からスタートしていることは確か。そこは同じだし、誰もが共感できるメンタリティだと思う。しかしカニエはその状況で壮大な愚痴をこぼすことしかできなかった。一方ウィン・バトラーはそんな愚痴をさっさと忘れて次へ進もうとした。進んでくれた。とても孤独な選択だったけれど、その代わりに闘いの疲れを癒してくれる本作を残してくれた。思い切りレイドバックした“あの頃”を思い出しながら。つまり、今年のNYタイムスは気が利いていたってこと。

Mood of 2010-Album Section#1-

今年は2回に分けて10枚のアルバムをふりかえり。そんで、フィギア・スケートみたいに評価ポイントを2つ作ってみる。最大★5つで表示。“アンセム値”は楽曲個々の評価。強力な楽曲が1曲でもあれば高くなる。“作品構成値”はアルバム全体の流れを評価。強い曲がなくても作品として優れていれば高得点。つまり“アンセム値”だけ高い作品はiTunesで済ましても良し。逆に“作品構成値”が突出してるならアルバム買っても損はナシ。けど読み解くまでに時間がかかるかもね。両方高けりゃ…墓場まで持ってけ。

10位

Crazy for You

Crazy for You

アンセム:★★★☆  作品構成:☆
東のドラムス、西のベスト・コースト。レトロ、ビーチ、ギターという2010年のムードを形成したこの2組にはお世話になった。最初はドラムスで決まりかなと思っていたけど、西海岸で最もアツいオンナ、ベサニー嬢の甘さが一枚上手だったね。今年しか聴かないんだろうケド、また夏になったら引っ張り出しちゃうかも。ワン・アイデアをアルバム一枚押し通してしまったので、ずっと聴くのは正直辛い。楽曲にムラがあったのもちょい残念。けれども何曲か、キラリと輝く夏の思い出が飛び出してくる瞬間があって、出会えてよかったと思う。

9位

フォーリン・テープス

フォーリン・テープス

アンセム:★  作品構成:★★★
オーストラリアってやっぱ変わってるね。AC/DCだけじゃないんだね。一聴した印象はブロック・パーティの1st。そこにミューの近作っぽいコーラスやヴァンパイア・ウィークエンドっぽいリズム遊びが顔を出す。随所に盛り込まれた打ち込みもヘヴィになりすぎずバランスよし。ここ4〜5年に誕生した色んなアイデアをごった煮にしたしたようなバンドです。よって好きな人は多いのかなと。でも、じゃあこのバンドの個性はなに?って聞かれると正直答えかたに困る。ジャケも含めツボはしっかり押さえてるのでこのへんで。

8位

Total Life Forever

Total Life Forever

アンセム:★★☆  作品構成:★★★☆
完全に化けたね。1stの躁病的なアンサンブル重視から、ちゃんと語れるバンドになった。深海を思わせるコンセプトも良い。5分越えの曲がいくつかあって、このタイプのバンドにしてみれば長い方なのだけれど、本作ではかえってそうした長尺の曲の方が断然いい。充分に浸れるムードを演出しつつ、フロアにも対応できるひねくれたポップスがある。クラクソンズのこけかたとは全く逆で痛快この上なし。

7位

High Violet

High Violet

アンセム:★★★  作品構成:★★★☆
声とドラムだけで成立したような作品。いや、本作で鳴っているのは野太いバリトンだけである。その隙間を埋めるように手数の多いドラムが機能し、ギターやベースは色彩を加えるに留まっている。そしてその声こそ、実り多きUSインディの潤沢さを物語るにふさわしい。ときに祈りの如く煌々としていて、ときに勤勉な農夫の掛け声の如く朗々としている。アントニーが神の声ならばこちらは摩利支天だ。この声はもっと多くの者を導くべきだ。歌にフォーカスするならば、近年中屈指の作品。

6位

Jj N 3

Jj N 3

アンセム:★★★★  作品構成:★★★
やっぱりスウェーデンには人知をこえた磁場が宿っているのかしら。JJ。綺麗なおねぇさんが読む雑誌のようなユニット名を冠した男女デュオが鳴らすのは、サイケやシューゲイズとはまたちがった逃避。そうした意味ではグローファイの文脈で語られるべきだろうけど、グローファイ勢の多くが“まどろみ”を喚起しているのに対して彼女たちは“覚醒”を念頭に置いている。ひんやりしたムードのなかに挿入されるハーモニカや横笛などの生音の妙。ヒップ・ホップから拝借してきたリズムやR&Bっぽい節回しも無視できない。9曲で30分弱というわかり易さも重要。