Cool List Of 2009

2009年という年は…っと総括するかわりのカウントダウン。

5位The Middle East / The Recordings Of The Middle East
農夫に転職したARCADE FIREが夜毎開催する収穫祭。本作に収録されている“Blood”という曲を聴いた純粋な感想がこれだった。特に後半繰り広げられる大合奏に胸を打たれる。他の曲との落差が気になるが、その課題はアルバムまで持ち越すとしよう。ただ、こうした繊細さと壮大さを兼ね備えたインディ・ロックが、AC/DCやVines、JETなどの所謂豪腕ロックを量産し続けるオーストラリアから登場したことは、変わりつつある何かを予感させてくれるし、喜ばしいことである。

4位Bombay Bicycle Club / Bombay Bicycle Club
恐らく09年に発表された中で、まともなギター・ロックは本作だけだろう。なにしろこのバンドは2本のギターを奏でるというより、重ねる形で使用していて、なおかつそれがいちいち印象的。メロディにせよリズムにせよ、主導権はすべてギターが握っている。つまりSTROKES型の作曲に分類できるのだが、ビートの多彩さでは本家を凌駕しているのではないだろうか。その最たる例が“Always Like This”だろう。パート数が多いわけでもないのだが、曲中に様々な線が生まれ、それらを立体的に組み立ていく構築美がたまらなく気持ちいい。

3位Animal Collective / Merriweather Post Pavilion
何故、本作に対する評論家筋の評価があんなにも高いのか。この議論からは様々な論点を見出すことができるとおもうが、中でもメロディはその中核をなすであろう。彼らのメロディは一般的なポップさとは重心がズレている。簡単にいうと「エグい」のだ。そしてこの「エグさ」を堪能するためには一般的ポップさに一度飽きなければならない。麻痺すると言い換えてもいい。ポップさに一種の免疫・耐性がないと、本作で実践されているカラフルで天井知らずな多重コーラスはショッキングすぎて、ストレスとなる。そんな変態メロディで楽しめている私が偉いといっているわけではない。そうした領域にトライした果敢さとそこでもポップでありえた才気が恐らく評論家に評価されているのだ。こんなレビューでは敷居が高すぎて聴く気も失せるって?ならばもっとも簡単な訓練をレクチャーしよう。“Summertime Clothes”を爆音でかけながら、考えられうる限り奇妙な踊りを踊ってみることだ。

2位Dirty Projectors / Bitte Orca
2年ほど前から徐々にオーバーグラウンドでも騒がれるように、非ロックをもってロックするという方法論、その理想形として本作はもっとうるさく論じられるべきだ。バンドのブレインであり、バカテク・ギタリストであるデイブ・ロングストレスは年々加熱する北米インディ・シーンにおいてもっとも注目される奇才であり、彼らの音楽はVAMPIRE WEEKENDのファンとASISAN DUB FOUNDATIONのファン、そしてDEVENDRA BANHARTのファンから同時に愛される魅力を持っている。中近東音階を駆使したギター、完全にバンドの武器になったといえる3色の女性コーラス、エスニック感丸出しのリズム隊、ムード満点のストリングス・アレンジ、そのどれもが個性とバランスを尊重しあいながら曲を形成している。それでいてヘビーになりすぎないアルバムとしての構成の妙。ベスト・トラックを選ぶことにこれほど苦心するアルバムも珍しい。

1位The Horrors / Primary Colours
誰にも文句は言わせない。09年の私的ロック生活は“Sea Within A Sea”とともにあった。ジャスト8分。淡々と刻まれるビートと妖しい音響で始まり、神々しく響くファリスの歌声、中盤以降一気に覚醒するハンマー・ビート。地の底から空高く昇天するシンセサイイザー。それは、たとえばべっとりと蒸し暑い夏の団地に囲まれた小さな公園で聴いたとしても、私にとっては救済だった。ガレージ・ゴスの亜流としてその音楽性よりもルックスに話題が集中し、音楽的評価は二の次とされた1stアルバムから2年、音楽的深化を指摘せずにいられない本作は彼らにとっての“The Bens”となるのか、あるいは“OK COMPUTER”なのか。そうした蛇足な考察をゆるしてくれる唯一の作品であった。