鹿狩り

2010年も暮れに向かいつつあるこの時期に、新商品のCMにレディー・ガガを起用してしまうところが、auという会社のマーケティング戦略が持つ、垢抜けないダサさを物語っていると思う。何故iPodiPhoneのCM曲がヒットしたのかを全く理解していない。そして、カッコよさが既に定着してしまっている相手に対抗するのに、こっちもカッコよさを持ってくるっていう…それって、戦略的っていえるんでしょうか。別にiPhoneレディー・ガガも存在そのものはカッコイイとは思わないけれど、両者とも想定している価値観ってそういう類のものでしょ!?ストライプのスーツにトンがった革靴で闊歩するインテリ風ビジネスマンがいかにも好みそうなカッコよさみたいな。そういうスノッブな価値観に吐き気を覚えるような層をいかに取り込むかを考えた方が良かったんじゃないかな?ディアハンターを聴く「LISMO!ユーザー」を作るにはどうすればいいかとか、ね。
ま、ガガ様やスマートフォンはどうでもいいけどディアハンター、色んな意味であんまり売れないのかなと。なぜなら、1)地味である、2)加えてアルバム中盤以降にいい曲が集中しているので魅力が伝わる前に聴くのをやめられてしまう可能性が高い、3)そもそもこの手の作品を好んで聴く層は音楽にお金を払う習慣のない人が多い、4)本作の魅力に心酔した人はその魅力についてあまり語りたがらなくなる。まぁ3番目の理由なんてここで紹介してるインディ・ロック全部にあてはまるのだが、それはいいとしてもっとも奇妙なのが4番目の理由でしょうね。
「本作の魅力に心酔した人はその魅力についてあまり語りたがらなくなる。」そのこころは!?それはこのアルバムがリスナーと築こうとしている関係に由来します。歌詞は暗いしボーカルはお世辞にも美声とは言えない。アニコレのカラフルさを丸ごと飲み込んでしまいそうな闇のムードが楽曲全体に蔓延していて、重い…。けれどメロディだけは掛け値なしに美しい。つまりツンデレなんですね。徹底的にリスナーを痛めつけ昏睡状態に陥ったところで、えもいわれる美メロがふっと顔を出す。そしてその菩薩のごとき表情に気を許していると、短剣でわき腹をズブリとやられる、みたいな。ショックと救済が変わりばんこにやってくるんですねぇ〜。つまり演るほうも聴くほうも変態なんですねぇ〜。こんなの好き好んで聴いてますって、誰がカミングアウトできますか!?あえて、日頃音楽をあまり聴かないような人になら言えるかもしれませんよ。「ディアハンターってバンドがいぃんだ〜」みたいな感じで。だってわかりっこないもの。けれど、ちょっとでもインディ・ロックやディアハンター周辺なんかに予備知識がある相手にはなかなか…。「お前もかよ!!」って思われちゃうもんね。
いってみれば太宰文学みたいなもので、作品と読み手(聴き手)の間でやり取りさせる感情がパーソナルすぎるもんだから、もうひとり誰か連れてきてその魅力を一緒に分かちあおうって気になれない。作品対自分の関係性に没頭したくなる。こういう作品ばかりと接していると、ほんとにあっちの世界に行ってしまって帰ってくれなくなるんじゃないかと心配されたりするけれど、最後にはなぜだかスッキリした自分がいることに気付く。そりゃバズは広がらんよね。来年に予定されている来日公演でも会場の全員が体育座りで静かに観賞しちゃってる様子が無理なく想像できてしまいますもの(実際はそんなことないと思うが)。そして私は、そんなディアハンターと彼らの最新作『Halcyon Digest』が大好きだ。

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