蝶々夫人

10年前、高校一年生だった自分に「ピンカートンのデラックスエディションがでるよ。しかも未発表曲満載で」っと伝えることができたら、それから10年も待たなければならない高校生の自分はどんな顔をするだろう?「余計なこと言いやがって」っと舌打ちするかもしれないし、“You Gave Your Love To Me Softly”や“I Just Threw Out The Love Of My Dreams”は収録されるのかどうかしつこく尋ねるかも。WEEZERの2ndアルバムである『Pinkerton』は当時から私にとって聖典だったのだ。点取り虫か童貞のハードロック狂みたいなのしかいなかったクラスに馴染めず、完全に浮きまくっていた私にとって、安藤広重の浮世絵『蒲原』をジャケットにあしらった本作は、全ての意味で完璧だった。
いつもみたいに長々と講釈したくはないけれど、簡単にレジュメしてみよう。このアルバムは、一瞬にしてUSギター・ロックの頂点に立ってしまったリヴァース・クオモというメガネ男子がその成功に戸惑い、ときに乱痴気騒ぎを起こし、嘘つきの彼女に追いすがり、日本からのファンレターが入っていた便箋を舐め、レズの娘に恋したり、遂に理想の女性に巡りあったりして青春を卒業する物語。赤裸々すぎる歌詞と過剰なディストーション、半泣きのボーカルとウルトラ・ポップなメロディだけで構成された青春独白日記。そこに愛はない。
「そこに愛はない」そのとおりだ。その事実を自覚しているという一点こそ、本作の魅力。着うた世代の歌姫や総選挙に出馬するようなアイドル達が軽薄に歌う「I Love You」とは訳がちがう。愛なんてポップ・ソングの中に見つかるわけがない。だからBEATLESは「All Need Is Love」と叫び、STROKESは「Is This It?」と問いかけたわけだ。この文脈でいくと、「This Is It」と言い切ってしまったMICHAEL JACKSONはホントにツワモノということになるが、それは置いといて。
そんなことはないと思うが、もしも君がWEEZERを、『PINKERTON』を聴いたことがないのなら、一度試して頂きたい。買え、とは言わない。レンタルでも違法ダウンロードでも何でも構わない。どうせ結局、手に入れたくなるんだから。

ピンカートン<デラックス・エディション>

ピンカートン<デラックス・エディション>